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Twilight of midnight

いただきもの

ある密かな戦い

今回はるるさまが「セズクさんまた書いてください」とおっしゃったので、そんな感じです。

※「セズクさんって?」という方はるるさま著「怪盗な季節☆」を読もう。今すぐ読もう。

ではまぁ、以下からどーぞー。




  ある密かな戦い

 アリルは星夜楼の廊下を歩いていた。
 父、母と共に帝国郡に保護された彼女は星夜楼と呼ばれる巨大な戦艦に乗っている。星夜楼と呼ばれるこの戦艦は、なんでも大昔の遺物らしく、ものすごい性能らしいのだが、実際のところアリルには良く分からない。
 ただ、分かっていることは、自分の彼氏である波音がこの戦艦に乗っているということ。
 波音を探して艦内をうろうろしていると、彼の友人であり同室の仁と出会った。
「あいつなら部屋にいると思うよ」
 アリルは波音の部屋へと向かっていた。迷いやすい艦内ではあるが、どうにか場所は覚えている。
(なんといっても、私は波音君の彼女ですから。彼氏の部屋の場所ぐらい、覚えておかないと!)
 金髪のポニーテールを揺らしながら彼女は歩く。
 そのうちに、波音の部屋の前に着いた。扉は閉まっている。
 少し躊躇ってから、ノックする。
「……」
 返事がない。
「?」
 もう一度ノック。
 だが、また返事がない。
 アリルは首を傾げた。
「波音君? アリルです。いないんですかー?」
 そっと扉に手をかけると……開いた。
 鍵がかかっていない。
「お邪魔しまーす」
 そろそろと扉を開く。その隙間から顔を覗かせる。
 室内は薄暗く、狭い。
「波音君?」
 二段ベッドの中ではぐしゃぐしゃに盛り上がった毛布。
「寝てるんですか?」
「あれ、どうしたのカナ?」
 ギクリ、とした。
 薄暗い室内。ギギギ、と首を回すと、そこには人影。
「部屋、間違えちゃった?」
 白いバスローブに身を包んだ、金色の髪の青年がそこにいた。
 確か、
「セズク、さん?」
 金髪碧眼で、まるで王子様のような物腰の青年がそこにはいた。
 かなり恰好良い。間違いなくファンクラブがあるだろうし、下駄箱にはラブレターが詰め込まれているだろうし、バレンタインデーにはチョコレートを渡すのに行列が出来るに違いない。
 波音の手前騒げないが、もし彼氏持ちでなければ自分だってチョコレートを渡したかも知れない。
 それぐらいの美形。
 アリルの思考は一時停止。そしてとりあえず、確認する。
「ここ……波音くんの部屋、じゃないですよね?」
「うん」
「ああ良かった! 私てっきり波音君の部屋でセズクさんがバスローブ姿でいるからちょっとあらぬ妄想とかが走馬灯のように駆け廻っちゃいました。あーびっくりした。そうですよねー、そんなわけがないですよねー。大変失礼しました」
「ここ、ハニーの部屋だよ」
 ビシリ、とアリルの動きが止まる。
「マイハニーがあんまりにも寂しそうだったから、思わず部屋遊びにきちゃったんだ♪ で、その後は……あんまり野暮なこと、言わせないでよ」
(ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って。なになに、なんなのこの状況? 彼氏の部屋に遊びにきたら、出てきたのは金髪美青年でしかもなぜかバスローブ姿で、ちょっと頬染めて、うっすら汗とかかいてて、そして乱れたベッドと、盛り上がってる毛布……ってことは、波音君はそこに寝てて、寝てるということは、遊びにきたというセズクさんは今までどこでどうやって遊んでいたかっていう話になるわけだけど、じゃあどうしてバスローブ姿なんだってことになって、バスローブってことは、普通は裸に羽織るもんでしょ。ということは今まで半裸だったってことで、裸で二人でベッドの上でなにをやるかっていうと……いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って落ち着いて私! 大きく深呼吸よ! ……スー、ハー、スー、ハー。うん、落ち着いた。落ち着いたわね、私。うん。今までのことを総合的に判断すると、これは全部夢ってことね。うん、夢だわ! きっと波音君の部屋にくる間に寝ちゃったのね私。嫌だ、廊下で寝てるってこと? 早く起きなきゃ、早く、早く……)
「目覚めろ、私!」
 そしてアリルは、勢い良く自分自身にビンタをかました。


 ぐるぐると考えこんでいるアリルの様子をうかがっていたセズクだが、さすがに叫び声とともに、突然自分の顔にビンタをかますとは思っていなかった。
「ちょっと、大丈夫?」
 恐る恐る声をかけると、物凄い形相で睨まれた。
「……なんで消えないんですか」
「え?」
「あなたは私の夢でしょう! どうしてほっぺた痛いのに、消えてないんですかッ!」
「なんでって、現実だからね」
「そんなわけないじゃないですか!」
 自分で叩いた頬を赤く染め、やや涙目のアリルはセズクにビシリと指を突きつけた。
「波音君の彼女は私なんですよ! あなたがどういう人かは存じ上げませんが、波音君の部屋でそんな姿でいるような状況、あり得ません!」
 ここにきて、突拍子もない行動に出たアリルに飲まれていた感のあるセズクの調子が戻ってきた。
 断定的な彼女の言葉にも、軽く肩を竦めて受け流してしまう。
「たとえ君がマイハニーの彼女だと言い張ってもさ、現実を受け入れた方がイイと思うヨ♪」
「認めません!」
「頑固だなぁ」
 セズクは笑いながら息を吐く。
「どれだけ頑なに否定しても、マイハニーの初めては僕がもう貰っちゃったんだってば♪」
「ッ!?」
 あまりの言葉にさすがのアリルも怯んだ。だがそれも一瞬のこと。
 彼女は息を吸い、言い切った。
「波音君の初めては、私のものですッ!!」


 そのセリフでビシリと凍りついたのは、丁度たった今、部屋に戻ってきた波音だった。
「なんなんだ、この状況は……」
「あ、お帰り、マイハニー♪」
「波音君ッ!? え、じゃあベッドに寝てるのは?」
 アリルが毛布をめくると、そこにあったのは人形。
「等身大波音君人形……」
「僕の手作りだからね、それ。汚さないで」
「……おいくらですか?」
「はい?」
「作っていただくのに、おいくら払えばいいんですかッ!?」
「いやいやいや、ちょっと待って。おまえら、いや、キミらちょっと待って」
 二人を制する波音。
「なんつーか、セズクを見ただけで大体の状況は分かるんだが……どうしてお前はそんな恰好で俺の部屋にいるんだ?」
「愛ゆえ、だね♪」
「そのクチ縫い付けてやろうか」
 針と糸を探そうかとした波音だったが、
「波音君」
 やけに静かなアリルの声音に、思わず背筋をしゃんとしてしまう。
「なんでしょうか!」
「その人と、どういう関係なんですか!」
 波音は愛しい恋人であるアリルからのその問いかけに、なぜだか即答出来なかった。
 だから代わりにセズクが口を挟む。
「運命の恋人同士だよ♪」
「違う! 俺とおまえは無関係、というかそうでもないけど、友達っつーのも違うし、知り合いというのもなんかちょっと違うし、えーと、うーんと」
「要約すると、許嫁、だね☆」
「全面的に否定するぞ馬鹿」
「もう、面倒だなぁ、マイハニーは。恋人で良いじゃないか」
「良いわけあるかッ!」
「そうです!」
 アリルは高々と宣言する。
「波音君の恋人は、私です! そうですよね?」
「そ、そうです! 俺の恋人は……アリルさんです」
「偽りの恋人、デショ? 真実の恋人が僕だから」
「波音くんが認めてないのに、まだそんなこと言うんですか? 往生際が悪いですよ!」
「なんとでも言ってくれて構わないよ。人には欠点というものが必ずどこかにあるものだからね」
「いやおまえ、それ良いセリフっぽいけど、内容は最悪だからな」
「ハニー。僕を褒め称えるのに遠慮はいらないんだよ?」
「褒めてねーし!」
 果てしなく続く舌戦の最中、アリルは机の上に置いてあったペットボトルに手を伸ばした。さすがに叫び続けて喉がカラカラになってしまったらしい。だが相手は一歩も引こうとはしない。ここで水分を補給しておかなくては、この先の長い舌戦を戦い抜けないだろう。
 そこに丁度置いてあったのは、スポーツドリンク・アグーエリアツー。
「波音君、これ、もらっても良いですか?」
「え、それ俺のじゃない……」
 だがすでに、アリルは仁王立ちでそれを飲み干していた。
 アグーエリアツーは南国の豚の成分を柑橘系のフレーバーで味付けしたもので、どう考えても豚しゃぶをポン酢で食べたような味なのだが、なぜだかスポーツドリンクの定番として長年君臨している。
 ちなみに姉妹品のアグーエリアワンというスポーツドリンクもあり、それはカツオのたたきのようなのど越しで、そこそこの人気商品らしい。
「……あー」
 腰に手を当て、不動のポーズでそれを飲み干すアリルを見て、声を上げたのはセズクだった。
「もしかして、あれ、おまえの?」
 波音が好んで飲むのは、アグーエリアツーと人気を二分するスポーツドリンク・ポックァリズヴェットゥ。こちらも柑橘系のフレーバーを使用しているが、その味のベースはチーズリゾット。のど越しも米のツブツブ感を再現している。
 星夜楼の艦内には、この二種類のスポーツドリンクが完備されている。ポックァリズヴェットゥがあるのにアグーエリアツーを波音が部屋へ持ってくるわけがない。
 セズクを見れば、あきらかに「ぎく」という顔をしていた。
 ポーカーフェイスを装っているが、なんだかんだ付き合いの長い波音である。しかもこういった、セズクの良からぬ企みには幾度となく巻き込まれている。
「……良からぬ企み?」
 自分の思考に首を捻る波音。
「セズク、お前、一服盛ったか?」
「ぎく」
「なに入れたんだおまええぇぇぇぇッ!!」
 引きつった笑みを貼りつかせたセズクの胸倉を掴んで揺さぶる波音。だが答えはセズクからではなく、アリルの口から洩れた。
「ヒック」
 しゃっくりをするアリルを見れば、……顔が赤い。明らかに赤い。
「なーにしてるんれすかぁ、ふたりでぇぇ」
「おまえ、酒盛ったのかぁぁぁぁああッ!!?」
「嫌だなぁ、ハニー。誤解しないでよ。僕は『スポーツドリンクと見せかけてアルコール度三十パーセント越えのリキュール入れて、それを飲んだマイハニーが朦朧と可愛く酔っ払った隙を見てあわよくばいただいちゃお♪』と思ってただけで、彼女に一服盛ろうだなんてこれっぽっちも考えてなかったよ」
「『いただいちゃお♪』じゃ、ねえええええぇぇぇぇッ!!」
「もー! 波音君にくっつかないでくらはい! 波音君はアリルのなんれすからねぇ」
 そこへ、酔っ払ったアリルが二人の間にどさりと身を投げてくる。
 セズクはひらりとかわしたが、波音は彼女の体をまともに受け取る形になってしまい、たまらず尻餅をつく。
「ちょ、アリルさん」
「波音君もー波音君れすよぉ。アリルって、かわいー彼女がありながらぁ、どーして男の人に走るんれすかぁ。そりゃあ、波音君はかわいいお顔してますけどぉ」
「そこは完全に同意だね♪」
「アリルじゃ、波音君を満足させられないってことれすかぁ?」
 がしり、とアリルに肩を掴まれる波音。
 か弱い女の子で、しかも酔っ払っているはずなのに、その手は案外力強い。
(っつーか、この状況は、ちょっと……)
 手を繋ぐのがやっとの波音にとって、この状況は拷問に近い。
 柔らかく、熱いアリルの体が自分の上にぴったりと乗っている。体勢的に確認できないが、多分二人の足は絡みあったりなんか、している。
(ちょっ……)
 顔を赤らめ、やや涙目のアリルの顔が波音のすぐそばにある。問いかけるような、焦がれるような表情。
 甘い吐息が波音の顔にかかる。
 波音がいろんな意味で即死してしまう寸前の状況だった。
「じゃ、僕は帰ろうかな♪」
「えッ!? ちょっ」
「だって、折角マイハニーといちゃいちゃしようと思ったのに、お邪魔虫が来ちゃったし」
「お邪魔虫はセズクさんの方れすよぉ」
「また出直すから☆」
 バチン、とウィンクを残してセズクは退室してしまう。
「え、ちょっ、待」
「やっと二人きりれすねぇ」
 残されたのは、色んなところから汗がだらだらと出てきた波音と、なんだか目が座った様子のアリル。
「波音君」
「は、はい」
「これから、なにして遊びましょーかぁ」
「え、ええと、とりあえずどいて」
「嫌れーす!」
 キャッキャと笑うアリル。
 ……かくして、これから三時間に及ぶ波音の我慢大会は静かに開催されたのであった。

      お酒は大人になってから 了。




 どBLにしようと思ったのになぁ。←
 本編「怪盗の季節☆」の「111」と「死神超兵器」の間の話になります。アフリカ向かう最中の三日間で起こったかも知れない話です。
 アリルちゃんをきちんと書いたことがなかった気がしたんですけど、どんなもんでしょうか。……キャラ崩壊率が高い? うん、気付いてた!←

 今回は「セズクvsアリル」という構図でお送りいたしました。直接対決は初めてなんじゃないかな? そうでもないか。本編でもうやってますか。そうですか。
 星夜楼の波音くんの部屋にシャワーがなぜついていないんだ、と苦悩したのは秘密です。シャワーあったらなぁ。シャワー浴び出てきたセズクさんとアリルさんがばったり出会う、とかやれたのになぁ(笑)←
 等身大波音くん人形は、たぶん波音さんの手で没収。丁重に火葬されたものと思われます。
「でも平気! 型紙は残ってるからね♪」
「それも没収だゴラァ!!」
 折角セズクさんが夜なべして作ったのになぁ(笑)

 と、いうわけで10000hit企画でございました。
 こんな感じでOKでしょうか?
「違ーう!」というとこがあったらご指摘ください。スポーツドリンクの名前とか(笑)


ミズマ姉様ありがとうございましたw
ドリンクの名前、これ本編でも使わせていただきますww
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