Twilight of midnight

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いただきもの

医務室にて 

ベルカ超空制圧第一艦隊の旗艦である超空要塞戦艦《ネメシエル》の副長、空月・N・蒼中将は母港であるコグレへと無事帰還した。
 今日も敵国の都市を焼き払ってきた。いつも通りに。
 もはや戦闘は作業にしかすぎなかった。
 だいぶ気の滅入る作業だ。
 それが人の命を奪うから、でなくなったのは一体いつからだろう。
 例えば、そう、何百、何千とあるエアパッキンをひとつずつ潰すような単調なその作業自体に嫌気がさしていた。
 ただ今は宿舎のベッドに入って眠りたかった。
 だが、そうもいかない。
 蒼が向かったのはコグレ基地にある医務室。正確に言うならば……
 なんでしたっけ。
 思い出すのも億劫だ。
 とにかくそこは蒼ら大型艦艇“核”専用の『医務室』。
 そして彼女をほがらかな悪意で迎え入れたのは部屋の主、フール・ブラド。肩書きは科学技術局特殊戦術研究部部長。軍へ出向している今の肩書きは戦艦核用医務官でもある。
 細いフレームの眼鏡の奥には感情を見せない細い眼。顎も鋭角的でシャープな印象だが、悪意に満ち、両端が上がった口は大きい。
 顔と同じく体にも贅肉はもちろん筋肉すらあまりついていなさそうな痩せ型。潔癖症じみた真っ白の白衣の下に着ている衣服は常に黒いシャツとスラックス。
 茶色と赤を混ぜたような色の髪は長く、背中の中ほどまでで波打っている。それを無造作に首の後ろで括っていた。
 蒼からすればこの男は、唾棄すべき悪魔以外の何者でもない。だが彼の宿舎からは毎朝違う女性が出て行くという……。
 こんな世の中だから、私が都市殲滅戦なんてやってるんでしょうね。
 自嘲する。
「おー、また大勢人殺ししてきたんだってな」
 案の定、ブラドの第一声がこれだった。
 本当に悪魔なのではないか、と蒼は彼の頭に角、足元に尻尾を探すがそれは見当たらない。
「それは戦場から戻ったものに対する言葉として相応しいとは思いませんが」
 疲れていた。こんな男の相手をしている体力はない。
「おやおや。艦艇の部品の分際で。随分人間らしい言葉を吐くもんだね」
「……ドクター・ブラド」
「フールでいいよ、部品ちゃん」
 ファーストネームなどで呼ぶつもりは蒼には毛頭ない。
 というか絶対偽名だろうし。
「私は国法第七十九条『人工生命対及び擬似生命体の権利』により人と同等の扱いを受ける権利を保障されています」
「物知りだねー。《ネメシエル》のデータバングに入ってたの?」
「……機械扱いはやめていただきたいのですが」
「了解了解、部品ちゃん」
「……」
 蒼はまじまじとブラドを凝視。彼の目の奥は深い錆色で、ちっとも表情が読めない。ただ、笑っていないのはわかった。
 先に目を逸らしたのは蒼だった。
「あれー? 部品ちゃんでも気まずくなるんだ。さすが科学技術局。感情プログラミングもバツグンだね」
 ブラドの言葉はいちいち蒼の心を逆なでする。
 それにいちいち反応していては、こっちの心がもたない。
 蒼は『医務室』に入り、いつものようにベッドに横になった。
 戦闘後にはいつも行っている、
「メンテだね」
「ただのバイタル確認です」
 スキャニング機能のあるベッド。横になればすぐに脈拍から血圧、心電図から各種電気的な不具合までチェックできる。大型艦艇“核”専用の装置であった。
 戦闘が“核”の本体にどのような影響を及ぼしたのか、軍部は細部までデータを採取する。実戦に投入されているとはいえ、蒼ら“核”の運用にはまだデータが圧倒的に不足していた。
「そうだねー、たとえば戦闘中に“核”が死んだ場合とか? まだそのデータはないなぁ」
「実現不可能な状況のデータは採取不可能と考えられますが」
 なにいってんの、とブラドは嫌らしく笑う。
「あの戦艦は無敵の殺戮デストロイヤーだけどね。生物を殺す方法なんていくらでもあるさ」
 毒殺・薬殺・絞殺・刺殺……。
「いまでこそ部品ちゃんはお国のお偉方から、かわいいかわいいお人形さん扱いされてるけどね、あと何年もしないうちに部品ちゃんより賢くて強い別の船が出てくる。そうしたら、部品ちゃんはその『実現不可能』なデータをとるための実験台に成り下がるとも限らないよ」
「……」
「そうしたら、まず肉体的苦痛からいってみようか。四肢をもがれてもデータ上では“核”として機能できるって話だけど、本当かな? あとは精神的なボロボロにしてあげる。心を壊す方法なんていくらでもあるんだからね。その前に、部品ちゃんが女の子として作られたのを後悔するようなことをいっぱいしてあげよう。知ってる? 部品ちゃんって軍の一部から異様に人気があるんだよ。底なし沼のような恥辱に浸からせてあげよう。そのあとは麻薬かな。完全に部品ちゃんが今抱えている人間としての尊厳なんてものを根こそぎにしてあげる。そんな状態でも“核”として機能するのかな? もしもそうだったら、部品ちゃんたちは全員お払い箱だね。だって、人工的に人間の脳だけ作り出して、そのまま船に乗せちゃえばいいんだもん」
 蜜のように蒼の鼓膜には黒々とした悪意の言葉が垂れてくる。
 瞳を閉じてそれを聞いていた青は絞り出すように口を開いた。
「……ドクター・ブラド」
「なにかな」
「あなたのそれも、私を試すテストですか」

 ブラドは、おや、と肩眉を上げる。
「良く分かりましたね、蒼中将」
 初めて蒼を名前で呼んだブラドは、銀のフレームの眼鏡を押し上げた。
「もっとも、あなたであればもっと早く気付くべきだったと思いますが」
 口調と態度を改めたブラドは、彼本来の肩書きである科学技術局特殊戦術研究部部長に相応しいように見えた。驚くべきことだが。
 なんだか優しそうな人間にすら見えてくる。
「私たち“核”が、人間から悪意を向けられたときにどのような反応を見せるか、ですか?」
「端的に言えばその通りです」
 まだまだ“核”にはデータが足りないのだ。絶対的に。
「……だからって、科学技術局特殊戦術研究部部長が自ら行うこともないと思いますが」
「ご協力、感謝します」
 そう言って微笑むブラドの顔には、先ほどまでの悪意は欠片も見えなくて、それが逆に蒼の神経に障る。
「それで、私の反応はどうでした?」
「それは私の判断するところではありません」
 悪意はなくなったとは言え、ブラドの笑みからは相変わらずなんの情報も読めない。

 なんだかなぁ、と思っていると、蒼が横たわるベッドからピピ、と電子音。スキャンが終了した合図だ。
「はい、もう結構です」
 蒼は少し息を吐き、それから身を起こしてベッドから立ち上がった。
 いつもに増して今日は疲れた。
 早々に部屋へ戻って休もう。
 ブラドへ軽く会釈し、踵を返そうとしたとき、
「そうそう」
 と、ブラドは蒼のバイタルデータを確認しながら、ちらりと彼女を見る。
「次回から、担当医務官が変更になります」
「そうですか」
 妥当な話だ。蒼に対するこの手のデータ収集が終わったのだろうから。
「ではいままでお世話になりました」
 科学技術局から出向していたブラドも古巣へ戻るのだろう。軍部とは係わりの深い局だが、いままでのように頻繁に顔を合わせることもあるまい。
 蒼としては、金輪際ぐらいに見たくない顔であるのは間違いない。
 それにしたって今まで係わりあったことに変わりはない。
 当たり障りのない言葉で軽く頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそ中将にはいろいろと不愉快な思いもさせてしまいまして」
 蒼よりも深く深く頭を下げるブラド。
「あ、それから、これは老婆心ながら申し上げるのですが……」
「なんです」
「今回のケースでお分かりのように、中将へ接近するものは全てなんらかの実験データを採取する目的を持っていると思われた方が妥当です」
 どきり、と蒼の心が跳ねた。
「……と、おっしゃいますと?」
 じわじわと、胸の奥に重く黒いもやのようなものが溜まっていく。
 そんな蒼の心境を知ってか知らずか、ブラドは顔に心配そうな表情を貼り付けたまま、つらつらと言葉を吐いていく。
「ですからね、私は『悪意』でしたが、『善意』『好意』『友情』『思慕』……そういった、プラスの方向の意図を持って接近してくるものたちは、全て実験データを採取するために近付いてくると思われた方がよろしいですよ」
「……」
「ああ、これは人間に限ったことではなく、中将と同じ“核”であってもかわりません。彼らも所詮軍部の人間ですからね。指令であればどんな任務にも拒否権がないのはお分かりでしょう」
 蒼はブラドを見た。
 まだ、『悪意』に対するデータ収集は続いているのだろうか。
 それとも、この人間は本当の『善意』とやらでこんなことを私に言っているのか……。
 わからない。
「ご忠告、感謝します」
 掠れた声で足早に医務室を後にする蒼。
 これ以上、あの人間と一緒にいるとそれこそ気がおかしくなってしまいそう。
 口元を手で軽く押さえながら、蒼は自室へと足早に向かう。
 途中ですれ違う兵士たちに会釈を返すことも忘れていた。
 あの乾いた血のような、ブラドの錆色の目を見ていると、足元が崩れてしまうような錯覚がしていた。


 閉じた医務室の扉。
 それを見ながらブラドは笑った。
 悪魔のように。




 シリアス版です。「蒼ちゃんは孤独な戦いをしているのかー」と思っていた時期が私にもありました。←
 そんなわけで彼女にはまっっったくもって冷血な仕打ちになったわけです。ごめんね、蒼ちゃん! お願いだから千葉県に照準を合わせようとしないで…ッ!
 なんだか「ドSとはなんぞや」「言葉攻めとはなんぞや」とか思いながら書いたよーな気がします。
 あは! その時点でもうアウトだね!←

 ……ほんとすみません。ひとさまの娘を傷物っぽい感じにしてしまってホントに…<(_ _*)>




ミズマ様からいただきました。
なんということだっ!!

ありがとうございました。
シリアスな蒼さんも素敵です。
感激しました。
そしてこやつ嫌なやつだな……!
俺の蒼さんに何してくれてんだおらー!

……こほん。
本当にありがとうござました。
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月花さんへ

ブラドさん嫌な奴です。
心からっ。

ほんっとに嫌な奴ですっ。
うんっ。

訪問ありがとうございました。
本編ではブラドさんをめちゃくちゃ活躍させるつもりですので是非。
#2521[2012/04/19 23:01]  レルバル  URL 

ブラドさんの悪意がツボでした。

蒼ちゃん、可哀想だったけど、もう少し会話が続いても嬉しかったです!
#2516[2012/04/17 16:37]  月花  URL 

ぎゃあ! 展示されているぅッ!

「嫌なやつ」認定ありがとうございます。そのつもりで書いたので本望です!←

ねみさまの嫁にこんなことしちゃってすみませんでしたー!

#1197[2010/12/21 20:40]  ミズマ。  URL 














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